「知るぽると」(金融広報中央委員会)が2013年11月7日に発表した「家計の金融行動に関する世論調査」の時系列分析をしてみる。対象は二人以上世帯で世帯主が60才未満の現役世代の家族となる。調査サンプルは各年8,000サンプルで、毎年4,000世帯前後が回答している。

上のグラフはその中で「老後の生活についての考え方」について聴いたものだ。
バブルが崩壊した1992年以降のデータとなるが、「非常に」または「多少」心配と答えている人は60%強から90%前後へと増加している。特に「非常に心配」と答えた比率は20%以下から50%前後へと2倍以上に増えている。
9割の人が老後を心配、さらに半数の人が「非常に」心配しているという状況は普通ではない。『こんなに多くの人が不安に感じていることだ。』
では、その不安の中味は何だろうか。
本当に不安なのだろうか?たぶん、本人たちはそれがわからないから不安に感じてい
るのだろう。
上記グラフは「老後が心配な理由」と「老後が心配でない理由」をそれぞれ対応させた選択肢で回答してもらっている。

5つの理由の中で「心配な理由」と「心配でない理由」の差が広がっているのは「年金・保険」と「老後に備えての準備(貯蓄)」の2点。つまり、多くの日本人は「金融資産」はほとんどなく、「貯蓄」「年金・保険」では足りず、このことが「老後が心配」とする大きな理由となっている。
つまり、「お金」が足りないから老後が心配と思っている。しかし、その不安は漠然としている。老後にいくら必要かについて具体的に把握している人は少ない。年金を含めて夫婦2人で1億円は必要だとか、引退する時点で3000万円の貯金は必要だ、などの一般論はよく聞くが、それが自分事化していない。他人事と一緒の一般論では、不安も他人事になっている。不安が他人事の間は誰も具体的な行動には出ない。ただ、何となく心配して不安になっているだけだ。
この不安に対して、ビジネスとして不安感をなくすためのサービスがいろいろある。そのための相談先として、銀行や信託銀行、会計士やフィナンシャルプランナー、生命保険会社、不動産コンサル、などが様々なメニューをもって待ち構えている。どのアプローチも、老後の生活を計画してあるレベルの生活と不慮の病気・事故に備えるためにいくら必要かを想定しておいて、その生活資金の需給バランスをとる資金計画を立案するというものだ。
このようなサービスは2つの理由でサービスの提供範囲が偏ってしまう。
1つ目は、ある程度の収入なり資産を持っている人たち向けのサービスが中心で、本来より不安度が高い層(低年収)に対するサービスはかなり少ない。つまり、今ある資産なり資金をうまく運用して楽しい老後生活を迎えようとするもので、そのベースになる資産、資金を持たない層には解決策を提示できない。
2つ目は、迫っている老後が不安な人ほどその老後の実態を明確にしたがらない。心理的に「怖いものには目を瞑る」行動に出る。老後の生活実態を想定して明らかにする層はそれに対して対処ができる裕福な層といえる。その意味でも低所得・小資産層はその対象から除外されいる。
既存の老後生活設計・支援サービスから除外されている人に対しては『お金を使ってお金を増やす」ソリューションではなく、何らかの形で積極的に生きていく動機づけが必要で、そこには未着手の新しいビジネスチャンスがあるはずだ。最低限の生活は年金などの社会的仕組みで支える必要があるが、「お金」に依存しない「生きがい」を求める生き方を支援するサービスが必要になってくるのではないか。