「オフィスへの置き売りビジネス」の記事が先日の新聞に掲載されていた。
有名なところで「オフィスグリコ」や「ネスカフェアンバサダー」があげられているが、それ以外にも野菜のオフィスへの宅配などもある。
この「置き売りビジネス」の特徴は、消費者あるいは消費地の近くに商品を置いておくことだ。
これまでは「オフィスグリコ」の商品であるお菓子は「コンビニ」「スーパー」の売場におかれていたが、それが「オフィスグリコ」では売場が「オフィス」に移った。
このことをマーケティング視点からみると、2つのことがわかる。
1つ目は売場までの物理的距離が縮まったことになる。(もちろん、それによって時間距離も縮まった。)
まだ、買ってもいない商品が、行ってもいない売場がオフィスに出現していることになる。これはB2Cのビジネスではあまりないことだ。
この状態を、流通業の出店時に利用する「ハフモデル」という売上予測モデルでこのケースを考えてみよう。ハフモデルは売上は(住居と売場の)距離の自乗に反比例し、売場面積に比例するという売上予測モデルである。なお、このケースでは、売場面積の代わりにお菓子の「アイテム数」を代替にする。
このハフモデルによるとオフィスグリコで買物をする確率は、
すべての店での(お菓子のアイテム数)÷(その店までの距離の自乗)を累計したものに対するオフィスグリコでの(お菓子のアイテム数)÷(その店までの距離の自乗)で表すことができる。
仮にお菓子はコンビニだけで買って、オフィスの近くには3店のコンビニがあるとする。
それぞれのコンビニへの距離とその店のお菓子のアイテム数は以下の通り。
A店 100メートル 300アイテム
B店 300メートル 250アイテム
C店 500メートル 500アイテム
オフィスグリコ 0メートル 30アイテム
これを計算式に代入すると「オフィスの人がお菓子をオフィスグリコで買う確率は99%」となる。
計算間違いかと思うほど高い数値だが、実際そのようになるのは実感としてはよくわかる。わざわざオフィスを出てコンビニまでお菓子を買いに行くことは何かのついでがない限りほとんどなくなる。
わずかストッカー1~2個で、わずか30アイテムの品ぞろえのオフィスグリコの影響で近くのコンビニにお菓子を買いに行くことはほとんどなくなってしまう計算だ。
この計算結果が示唆するものは、
売場と買い手の距離を縮めることがどれだけシェアや売上に影響を与えるのか、
ということだ。
もう一つの変化は、
お菓子の販売というB2Cの販売モデルにB2Bの販売モデルを取り入れたことだ。
オフィスに後払い精算のビジネスモデルはコピー機、複合機をはじめとして通信費、宅配便など様々ある。オフィスグリコはまさにそれらと同じでB2B型でお菓子を販売していることになる。
このB2B型ビジネスモデルの特徴は売り手と買い手の間に信頼関係をベースに機材を常設することだ。
コピー会社や通信会社はオフィスに入ると高いシェアを獲得する。それと同じようにオフィスグリコも高いシェアを獲得している。その共通点はコピー機なり、ストッカーなりをオフィス内に設置していることだ。そして、その収益をその機材ではなく、消耗品やお菓子などのランニングで稼いでる点である。
つまり、オフィスグリコはお菓子のコピー機ビジネスである。
オフィスは残された消費財市場である。そこは普通の消費財ビジネスモデルで攻め入るのは難しい。だから、これからも「オフィスグリコ」や「ネスカフェアンバサダー」のようなビジネスモデルは今後静かに浸透していくはずだ。