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グランドセイコーはLEXUSになれるか?!

「グランドセイコー」をリブランディング

セイコーは日本の老舗腕時計メーカーでシチズンと並んで巨頭である。そのセイコーが、リーダーブランドである「グランドセイコー」のブランド強化に乗り出すという記事が先日新聞に掲載されていた。

セイコー 「GS」てこ入れ <以下、引用> : 2017年3月22日 日経新聞 朝刊

セイコーホールディングス(HD)は高級腕時計シリーズ「グランドセイコー(GS)」のブランド力強化に乗り出す。文字盤から「SEIKO」のロゴを外し、売り場デザインも一新する。主力ブランドの大規模な改革は創業以来初めて。価格とブランドイメージを引き上げ高級時計に強いスイス勢に対抗する。
現在は文字盤の12時の位置に「SEIKO」、6時の位置に「GS」のロゴを入れているが、今後は12時に「GS」を置く。24日に限定発売する初代グランドセイコーの復刻版から採用する。店頭には5月から、新たなロゴ配置にした商品を順次供給する。(以下、略)

伸びる国内高級時計市場

さて、この10年間のウォッチ(腕時計)市場の動きをみたのが次のグラフだ。リーマンショックで一度沈んでから順調に出荷金額は伸びている。特に国内向け出荷台数は横ばいだが金額は大きく伸び、高価格帯の市場が拡大していることが伺われる。

グランドセイコーはこれまで50万円~70万円を中心に展開していた。もちろん、この価格帯も普段使いの腕時計としては高いと思うが、海外高級腕時計ブランドが支配しているのが100万円を超える高級時計市場だ。この高級時計市場ではロレックス、オメガ、カルティエ、などの欧州ブランドが7割以上を占めているそうだ。この伸長著しい市場において海外勢を駆逐するのが「新」グランドセイコーの役割である。

トヨタの高級市場戦略

時計と自動車と製品は違うが欧州ブランドの台頭する高級市場を開拓した似たような事例はトヨタだ。欧州ブランドの高級車が日本において足場を固める以前の日本の高級車市場で中核をなしていたのはトヨタの高級車、クラウンだった。トヨタは「いつかはクラウン」(1983)のコピーでブランドヒエラルキーの頂上にクラウンを位置づけ、届かない夢ではなく、いつかは手が届く目標としてブランディングした。つまり、カローラ→コロナ→マークⅡと乗り継いで階段を上っていくと、最終的に昇り詰めるところにいるのがクラウンだった。

海外で成功したLEXUSのブランド戦略

しかし、バブル経済崩壊後の高級市場は、中流社会の先にある階段を昇れば行けるところではなくなっていた。高度成長時代の1億総中流意識のゴンドラを次々と担ぎ上げていく感覚の「いつかはクラウン」戦略は通用しなくなっており、その後のグローバル市場でのトヨタの高級車戦略を成功に導いたのは、先行して海外市場へ投入した「LEXUS」ブランドだった。トヨタは海外市場で高級ドイツ車たちと戦い、勝ち得た評価を国内市場にフィードバックし、これまであったトヨタ車のヒエラルキーとは違うものとしてLEXUSブランドを位置付けた。

「新」グランドセイコーは時計のLEXUSを目指す?

「新」グランドセイコーが当面目指しているのは国内高級時計市場だ。欧州勢に奪われているシェアを取り戻し、市場成長の恩恵を確実に享受できる地位を獲得することにあるはずだ。しかし、これまでのセイコーブランドの延長線上にはそこへ昇る階段はない。「新」グランドセイコーで海外の評価を受け、それをどの様にフィードバックするのか? 機能や品質では世界一流の評価を得ていてもそこに欧州の高級の香りをどのように付け加えることができるのか? 必要なのはモノづくりだけではない、イメージ戦略であり、情報戦略だと思う。

ブランド体験の場

LEXUSの高級ステイタスを築いた大きな要素にショップ(ディーラー)がある。初期のサービス基準をホテルに倣い、それまでの自動車販売店とは異なる体験を生み出していった。中でも、「レクサス星ヶ丘の軌跡」と言われるような体験は、感動を生み、ストーリーとして語られ、伝説となっていった。

一言でいえば、「すごいな!LEXUS」だ。

グランドセイコーのブランディング拠点が以下のブランドショップだ。
・セイコープレミアムブティック (東京・大阪) 2店舗
・セイコープレミアムウオッチサロン   36店舗

セイコープレミアムブティック(銀座)

登場時のLEXUSの販売店でのブランド体験はそれまでのカーディーラーとはステージを異にする素晴らしい感動があった。

グランドセイコーもこの拠点で「グランドセイコー」のブランド体験ができるはずだ。そこには、LEXUSと同様の感動の接客や安心のサービス、さまざまなブランドのストーリーを知ることで、値段以上の価値があることを実感し、パーソナライズされた「私のグランドセイコー」を体験できるだろうか。
(本当なら店名に”GrandSeiko”を使いたいところだと思う。いろいろなしがらみがあるのだろうが。)

いつか「すごいな!グランドセイコー」と言われることが本物の高級ではないだろうか。

 

マクドナルドは見下すことで顧客支持を獲得した!

昨年後半あたりから、マクドナルドは復活した、などの記事やコメントを見かけるようになった。実際、数字を見ても昨年は2年連続の赤字を乗り越えて再び黒字を迎えられそうだ。
最近、マクドナルドの店舗を利用していると、ピークタイムは顧客で店内があふれていることが多い。
住宅街の平日・昼間なら、幼児を連れた若い主婦、休日はファミリー、中高校生が多く、ビジネス街ではビジネスマン、OL、と、それぞれの立地にふさわしいマス顧客を確実に獲得しているようだ。

マクドナルド衰退の経緯を見てみよう。


2014年3月 原田氏 社長退任
2014年3月 カサノバ氏 社長就任
2014年11月 中国で期限切れ鶏肉問題発生
2015年1月 異物混入発生
2015年4月 ビジネスリカバリープラン発表
2016年7月 「ポケモンGO」とコラボ展開

・マクドナルドは実は原田社長時代に既にダウントレンドに入っており、FC化の推進によって増益だけは確保してきていた。つまり、鶏肉問題などの一連のトラブルが売上低下の原因ではなく、震災以降の消費マインドの冷え込みを見誤ったなどと言われていた。

起死回生を担う「ビジネスリカバリープラン」とは以下のような内容で、とても、ベーシックなものだった。

(1)よりお客様にフォーカスしたアクション
・メニュー改訂
・クーポンアプリ
・お客様とのつながり
(2)店舗投資の加速
(3)地域特化型ビジネスモデル
(4)コストと資源効率の改善

これらを一言でいえば、「お客様本位になろう」というものだろう。

<そして、成功の要因は>
自らの客は「大衆」であり、「フォロワー」であるということを再認識した施策が功を奏している

・顧客は大衆なので、安全・安心情報をわかりやすく「わたくしごと」にして発信した

→ 人のうわさも75日で徐々にマイナスは減っていった
→ 品質に対する心配やアレルギー問題などをわかりやすくコミュニケーションした
→ 安全・安心に関心の高い人から情報が伝わるようなしくみを作ったことで、フォロワーであるお客様の信頼性が回復した

・顧客はフォロワーで、「ハンバーガー好き」というわけではなかった

→ メニューは構造がわかりやすく、オーダーしやすくなった
→ 基本価値である食べることの価値が鮮明になった
→ おいしさ・味は大きく変わらなくとも問題ない
(もともと不味くはないし、味でマクドナルドを選んでいるわけではない)
→ 「高いなあ」という声がなくなった → メニューのコストパフォーマンスが高い
→ 今、何が売り物なのかがわかる

・顧客は「サイレント・マジョリティ」、自ら意見は言わない

→ カサノバ社長が自ら顧客インタビューをしたり、アプリを使って顧客の声を集めている
→ KODOというアプリの効果は疑問符だが、企業が行うヒアリングは有効だ。
→ 特に、マクドナルドに来なくなったお客様を集めてその理由を聞いているのはとても良いことだ。
店に来ている客に聞いてもマクドナルドに行かない理由はわからない。
→ ここまではほかの企業ではなかなか行っていない

過去にマクドナルドが凋落した要因は顧客を大切にしたがあまり、顧客を「大衆」「フォロワー」であることを忘れたためだった。それを改めて、「大衆」「フォロワー」として認識しなおしたので、マクドナルドは再び大衆=マス市場からの支持を獲得できた。