呉服商のお爺さんとマーケティング(1)

究極の販売モデル

もう随分前に亡くなってしまったが、私が大学時代にも大変お世話になったお爺さんが呉服屋さんだった。呉服屋といっても店を構えているのではなく、月に1回くらい東京の問屋さんから反物を仕入れてきて、それを担いで商売をされていた。
お得先の家を反物持参で訪問し受注をとる。お客様は日常的に和服を着る旅館の女将さんや茶道・華道業界の人、また年に何回も社交の場に出る女性たち(今でいうセレブなおば様たち)が多い。
お爺さんはお客様と話をしながら意向を伺い、自分の持っている反物の品ぞろえの中から適切な提案をし、お客様の反応を見ながら、さらに次の反物を提案する。その会話の中には生地・織りや産地の話だけではなく、世の中のトレンド・流行の話だけでなく、同じ反物で作った方がどんな評判を得たかの身近な体験談も交えていく。現場を見たわけではないが、話を聴いた中ではこれがおおまかな呉服訪問販売ビジネスの流れだ。

最終的にはお客様が選んだ反物でお客様のサイズに合わせて着物を作る。
つまり、お客様の希望に合わせてモノを作り、それを販売するビジネスモデルだ。

「モノを生産・販売する」という活動において、かなり古くからあるビジネスモデルといえるだろう。(たぶん、物々交換経済の次の次くらいに発生していると思っているがどうだろうか。)

このビジネスモデルを「顧客満足度」の視点でみると、顧客のニーズ、要望を聞き入れてそれからモノづくりをする訳だから、単純に考えても物理的な商品に対する顧客満足度は高いはずだ。
さらに、ソフト的(情報)にみても、セールストークの中で提供している情報の有用性が高ければ満足度は高い。(この部分は属人的にならざるを得ないが、)

このお爺さんのような成功している「カスタム・オーダーの対面販売」は、顧客満足度の高いビジネスモデルといえる。

多くのビジネスが顧客志向を標榜し、顧客満足度を活動評価の重要指標(KPI)として設定している昨今において、「カスタム・オーダーの対面販売」は「究極の販売モデル」といえる訳だ。

「マーケティングの役割」って何ですか?

さて、「マーケティングとは、モノやサービスを売るための仕組みづくり」という考え方はごく一般的だと思われる。売るためのモノを開発する商品開発から、流通への導入、消費者への告知・信頼形成と動機づくり、ユーザのアフターケアとリピート促進、クチコミなどによる拡散までの一連の流れである。

呉服商のお爺さんはマーケティングをしていたのだろうか?
随分前だし、年齢から行っても「マーケティング」という言葉は知らなかったはずだ。知っていて、実践していたのは「商売」「稼ぐこと」だけだ。

お爺さんは「マーケティング」していない。する必要もない。しなくとも顧客満足度の高い商売をしているからだ。

では、「究極のマーケティング」とは何か?

この問いに対して用意されている答えは「マーケティングしないこと」である。
「モノやサービスを売るための仕組み」がなくても「モノやサービス」が売れる状態が最も理想的な状態である。
呉服商のお爺さんの「カスタム・オーダーの対面販売」だ。

ということで話は最初に戻ってしまいそうだが、マス・プロダクション&マス・セールスの時代にこそ「マーケティング」は必要とされ発展してきた。なぜならば、マスセールスになるに従い、販売モデルが「カスタム・オーダーの対面販売」からだんだん離れていくことになったからだ。マス・プロダクション&マス・セールスの時代になって、顧客にとって便利になったことも多いが逆に顧客満足は低下している。
故に、私は

そのギャップを埋めるのが「マーケティングの役割」と考えている。

「カスタム・オーダーの対面販売」の時代には存在して、「マス・プロダクション&マス・セールス」の時代になって失ってしまったものを補完することで、究極の販売に近づき、顧客満足度を高め、新規顧客とリピートオーダーを獲得することが「マーケティングの役割」である。

~ つづく ~

コメントを残す